
しなやかに道を選ぶ
- 新たな有田焼を実現した磁器ブランド -
佐賀県の有田町で2014年に創業された今村製陶は、磁器の企画・製造・販売を行っている窯元。
創業者である今村肇さんは、一般的な有田焼とは異なる磁器の新たな柔らかさや温かさを表現するために「JICON 磁今」という自社ブランドを立ち上げた。
その時々の自分に対して常にしなやかに、ただ明確な意思を持って生きてきた今村さんの価値観や想いが「JICON 磁今」に詰まっている。

自分の想いにしなやかに向き合う
今村さんは、360年以上続く有田焼の窯元の次男として生まれた。
「小学校5年生の自由研究で、初めて父に焼き物を教えてもらいました。それがすごく楽しかった。将来、自分は焼き物をやるんだろうなと思いました」
しかし中学生の時に建築関連のデザインに興味を持ち始める。
「中学の時の趣味は、新聞の折り込み広告に入っている不動産の間取り図を見ながら『自分だったらこうするな』とか考えることでした。なので地元の工業高校のデザイン科に進もうと思ったのですが、受かりませんでした」
結果的に地元の私立高校に通うことになったが、もっと学業に力を入れたいと考え直し高校浪人を選ぶ。翌年、福岡県内の進学校を受験し、通うことになる。
「私立高校の入学を取りやめたいと父に伝えた時、『人と変わったことをするのは苦労が伴う。それを受け入れる覚悟はあるか』と聞かれたことは今でも覚えています」
進学した高校では理系を選択するが、大学は芸術大学へ進学することとなる。
「理系の仕事をしているイメージが持てなくなったんです。この時に改めて、将来的には焼き物の道に進むんだろなと思いました」

今村さんは学生時代から、自分自身の気持ちに対して、常にしなやかに意思決定をしてきたのだ。
ありたいを実現する行動力
大学卒業後は、多治見市陶磁器意匠研究所という焼き物を学ぶ学校に2年間通った。
「本格的に焼き物を学んだ後、新卒で美濃焼の産地問屋に就職しました。どうしてもその会社に就職したいと思ったのですが、求人がなかったので『アルバイトでも良いので』といって採用してもらったんです」
この行動力に意思の強さを感じた。
「最初の6ヶ月は営業をして、その後は商品企画の仕事をしていました。ここで3年経験を積んだ後、実家の窯元へ転職しました」
この美濃焼での経験が、その後の今村さんのモノづくりを大きく変えていく。
「美濃焼は陶器なので、とても温かみを感じました。一方で自分たちの産地の焼き物は磁器なので、キーンという高い音がすることもあり冷たい感じがする。それがもったいないなと。なので、磁器独自の温かさを表現したいと思ったんです」

この着想が今村製陶のブランド「JICON 磁今」の開発につながっていく。
セオリーに固執しない
「JICON 磁今」は有田焼のセオリー通りに作っていない。
「有田焼は1300度の高温で焼くのが一般的です。しかしJICONは、1240度で焼いています。その方が表情が柔らかく仕上がるんです」

また原材料となる石にもこだわっている。
「出来上がりの色合いを踏まえると、五段階ある等級の中で、一番低い等級の石がイメージに近いと思いました。他社は使っていないので、採掘されているのに大量に余っている石でもありました。使う会社が少ないので、石を加工する費用が高くなってしまうのですが」
サステナブルという言葉が流行する前から、持続可能な資源活用に取り組んでいたのだ。
「JICONは釉薬の材料も天然の藁の灰を使って自社で調合しています。仕上がりはハーフマッドで、ツヤはないのですが触り心地がとても良い。よく手に馴染むと思います」

こうして開発された「JICON 磁今」のモノづくりで大切にしていることとは。
「一つだけの器でご飯を食べることはあまりないと思います。だからこそ、食卓に並べられた時に、量産品の器や作家さんの器などと相性が良い器でありたい」
見ていて飽きないスタイリッシュなデザインの「JICON 磁今」。同時に温かさを感じるのは原材料や製法だけでなく、今村さんのしなやかさの中にある確かな想いが詰まっているからだろう。










