
1922年に福井県小浜市で創業されたマツ勘は、箸の企画・開発と販売を行っている。
創業100年を越える老舗企業の4代目社長を務めるのは、創業者のひ孫にあたる松本啓典さん。
社会人2年目までスポーツに打ち込み続けた松本さん。そんな松本さんの”人とコト”への爽やかな、そして熱い想いが今のマツ勘のモノづくりには宿っている。

時代の流れの中で残り続けた技術
本社のある小浜市には若狭塗という伝統的な技術がある。
「若狭塗は、江戸時代に小浜藩の保護奨励下に置かれたことで基幹産業として発展しました。当時は武士の持つ道具や茶器などに使われており、徳川家にも献上されていました」
その後、藩の廃止と共に衰退していった若狭塗だが、その技術が箸に活用されることになる。

「若狭湾の海底などを表現するために、研ぎ出しという技法を使っています。漆を塗り重ねながら間に貝殻などを入れ、最後に表面を研ぎ出して模様を出す技法です。この意匠性と、塗り重ねることで生まれる耐久性を箸に活用したんです」
こうして生まれた若狭塗箸が、小浜の産業を支えていくことになった。
「この時代背景の中で、曽祖父と曽祖母が箸作りを始めたことがきっかけとなり、マツ勘が創業されました」
松本家の長男として生まれた松本さんは学生時代から、先代社長が経営をする姿や事業内容に魅力を感じていたため、いずれは家業を継ぎたいと考えていたという。

突き詰めることで可能性を広げる
そんな松本さんだが、学生時代はスポーツに打ち込んでいた。
「中学の時は野球部だったのですが、3年の時に偶然出場した陸上の全国大会で1位になったんです。ただ高校では他の可能性も追求したいと思ったので、陸上をするかどうか迷っていました」
しかし当時、中学校の教頭からの一言で迷いはなくなったという。
「自分の才能を無駄にするなと言われました。それを機に自分の才能は何かを考えた時に、陸上だと思いました。陸上を突き詰めることで広がる可能性もあると思ったんです」
結果的に大学も陸上の推薦で進学した。
「大学4年の時に主将をやりました。200名〜300名くらいの部員をマネジメントしていたのですが、いろんな価値観の人がいたので多様性を受容することの大切さを学びました」
そして大学卒業後は、自衛隊の中にあるオリンピック選手を育成する機関へ所属し、陸上を続けた。
「社会人になって2年間は陸上に打ち込みました。最後は日本ランキング2位という成績を収めることができました」

学生時代から打ち込んできた陸上に一区切りをつけた松本さんは、2011年にマツ勘へ入社した。
ヒトとコトへの熱さ
入社してしばらくした頃、自社の商品を作ってくれていたある塗りの技術師さんの仕事に驚いたという。
「1本1本の塗りを、絵筆で書いてくれてたんです。それを伝えなくても売れている商品だったのですが、こんなに手間と想いを込めていることが、お客さまに伝わっていないことに違和感を覚えました」
この経験がきっかけとなり、松本さんが大切にしていることがある。

「全ての商品にストーリーがあると思っています。ただ、小手先の商品企画的なことでストーリーを語ることもできてしまう。そういうことではなくて、つくり手がいるということを大切に伝えていきたい」
こうしたつくり手への想いは別の形でも表出している。
「rankakという商品は、江戸時代から続く若狭塗の技法を現代的なカタチにしたものです。こうした取り組みをしていかないと若狭塗の技術師がいなくなってしまう。若狭塗があったからこそ今の自分たちがある。自分たちのルーツを残したいんです」
爽やかな表情で真っ直ぐに人とコトへの想いを語る松本さん。
そんな爽やかさの根底にある熱い想いが、マツ勘の次の100年のモノづくりをしっかりとカタチ作っていくのだろう。













