
本当に美味しいと感じたとき、人は自然と「もう一口」と手を伸ばす。その瞬間は、頭で考える前に、身体が欲しているサインでもある。
okawari TOKYOは、そんな“身体の感覚”を起点にしたブランドだ。
「生きているということは、塩なしには語れない」
株式会社forのCEO 近藤香波さんがそう感じたのは、塩が持つ本来の役割を知ったときだった。海のミネラルバランスと、人間の体液や血液はどこか似ている。塩を取り入れることは、自分の中の”海”を整えることでもある。
ブランド名の「okawari」には、おかわりをしたくなるようなものを届けたいという願いがある。「TOKYO」は、日本から世界へ発信していくという意思の象徴だ。
誰かのために、という意味を持つ会社名「for」。近藤さんは、自分が本当に取り入れたいと思えるものだけを選び、その価値ごと届けていきたいと考えている。

感覚として受け継がれるもの
近藤さんは神奈川県鎌倉市の出身。幼い頃は葉山で育ち、気づけばいつもそばに海があった。父親はサーフィンが趣味で、名前に「波」の字が入っているのもその影響だという。自身も今もダイビングを楽しむなど、海との距離は変わらない。
自然が身近にある暮らし。その一方で、人との距離の近い関わりもまた、価値観の土台になっている。
「母はずっと働いていたので、おばあちゃんと過ごす時間が長かったんです」
おばあちゃんは、少し踏み込んだ関わり方をする人だった。
「いっぱい食べなさいとか、お風呂が冷める前に入りなさいとか。今が一番いいタイミングだよって、最高の状態で差し出してくれるんです」
ときには面倒に感じることもあったという。それでも、温かいお風呂の心地よさや、握りたてのおにぎりの美味しさは、実際に体験してはじめてわかるものだった。

誰かに少し強く背中を押されることでしか出会えない感覚がある。そんな実感が、近藤さんの中に残っている。
「先人たちが大切にしてきた知恵や、人から人へ伝わってきたものにも、ちゃんと価値があると思っています」
たんこぶに砂糖水を塗る。風邪をひけばネギを巻く。経験として受け継がれてきた知恵も、大切なルーツのひとつだ。
自然とともにある感覚と、人と人とのあたたかい関係。その両方が、今の在り方の土台になっている。
身体をつくるものと向き合う
大学卒業後、近藤さんは化粧品メーカーに就職する。プロモーションやファンマーケティングに携わり、生産者と向き合うブランドに関わってきた。
「実際に生産者の方のところに行って、誰かの手で丁寧に育てられているものを使っている実感が沸いたんです」
その経験は確かな手応えとして残った。一方で、次第に「体に取り入れるもの」そのものへの関心が強くなっていく。
日々取り入れているものを見直す中で、関心はより根源的な存在へと向かっていった。
それが、塩だった。
塩は、海を凝縮したもの。体の中に疑似的な海をつくり、ミネラルバランスを整える役割を持つ。

「塩を食べるって、自分の中の海の状態を整えることなんだって聞いたとき、すごく面白いと思ったんです」
知らなかったことに触れた驚きと、それが身体に直結しているという実感。その両方が重なり、興味は確信へと変わっていった。
「体に取り入れるものこそ、自分たちをつくっているんだと思ったんです」
その気づきは、働き方そのものを見直すきっかけにもなった。化粧品メーカーを離れ、自らの意思でかたちにしていく道へ。
こうして、株式会社forを立ち上げ、okawari TOKYOが始まった。
自然のままを、かたちにするという選択
「塩を食べると、海に入れる感覚があるんです」
日常の中で海に触れることができなくても、塩を通して自然とつながることができる。そんな感覚を、多くの人に届けたいと考えている。
塩は、単なる調味料ではない。
身体の中のミネラルバランスを整える、いわば“体の状態そのもの”に関わる存在だ。

扱う塩は、山口県の油谷湾でつくられている。森から流れ出たミネラルが海に届き、その環境が豊かな塩を育む。土地そのものが、味や質に大きく関わっている。
製法にも特徴がある。海水を循環させながら濃度を高め、結晶化させていく工程を経て、最後に天地返しと呼ばれる手法で仕上げる。
一般的には、ナトリウムが結晶化した段階で工程を終えることも多い。手間がかかるためだ。
しかしこの塩は、その先まで工程を進める。
海がそうであるように、ひとつの成分だけでは成り立たない。その状態に近づけるために、ミネラルのバランスまで含めて整えている。

「調味料ではなくて、体を整えるもの。いわば“調身料”をつくっている感覚なんです」
機械的に効率を求めるのではなく、自然のリズムや状態に合わせてつくる。季節によって味が変わることも、むしろ当たり前のこととして受け止めている。
自然の状態を、身体に取り込めるかたちへと落とし込むこと。
その質に向き合い続けることが、okawari TOKYOのものづくりの核だ。











