
島根県で木製のカトラリーの企画・製造・販売を行っているフレル。
創業者の山田哲也さんは、「”自分たち”が本当に良いと思ったモノを提案したい」と考え、モノづくりを行っている。
その考えの根底には、山田さんならではの想いや価値観があった。
新たな道に進む
山田さんは、高校まで地元の島根で過ごし、その後、大阪の専門学校に進学した。
「音楽の専門学校で音響を学んでました。小学生の頃から音楽が好きで、お小遣いをもらう度に、CDを買いに行ってましたね」
専門学校を卒業後は、大阪のレコード店に就職した。
「三十歳を前にして、仕事を通じて自分がやりたかったことは、全部やることができました。そしたら当時の仕事の中で、次の目標を見つけることができなくなったんです」
新たな道に進むことを決意した山田さんは、自分がやりたいことを考え直したという。
「音楽以外にも、モノづくりも好きだったんです。実家が模型店だったので、プラモデルを作ったり、資材として使われていた木を削って、釣りに使うルアーを作ったりしてました」
モノづくりの道に進むため、レコード店を辞めて、職業訓練校に通い、木工を学んだ。卒業後は、ベンチャー企業に就職して修行したあと、フレルを創業した。
自分たちが良いと思うものを形に
山田さんのモノづくりへの想いは「フレル」という社名にも込められている。「自分たちが作っているカトラリーは、毎日の生活の中で”触れる”モノ。だから”フレル”という屋号にしました」
山田さん自身も、日常生活の中で自分たちの商品を使いながら『どうしたら、より良くなるのか』という観点でブラッシュアップし続けている。
「例えば、スプーンの角度を少し変えるだけで、口当たりが変わるんです。もっと良くなるんじゃないかと思っている。飽きないし、満足することがないんですよね」
幼少期から、ずっとそうだったという。
「自分でルアーを作っていた時も『ルアーを、どう改良すれば、もっと釣れるようになるのか』を考えて、実際に作ってましたね」
この持ち前の探究心が「フレル」のモノづくりに強く生きているのだ。
一つ一つに向き合う
山田さんは、ほぼ全ての工程を手しごとで行っている。
「同じ種類の木でも、木目や部位によって固さが違います。一つ一つ、木の状態をみながら、どう削ると、もっとも良いモノができるのかを考えながら作っています。自分が作りたいモノは機械では作れないんです」そして、そこには”生命ある木”だからこそ、無駄にしたくないという想いもあるのだ。
そうした想いを大切にしながら、自分らしく、しなやかに生きている山田さんだが、以前はそうではなかったという。
「木工を始めるずっと前ですが『こうならなきゃ』とか『あの人のようになりたい』と思って生きていたこともありました。ただそれが、人の真似でしかないことに気づいた時に、大きな違和感になりましたね」
今は、作り出すモノ自体が自分自身だと感じているという。

「木工を始めて5年経った時に、このまま続けていくべきか迷ったことがありました。その時に『これまで作ってきたモノは、自分たちの生活で試行錯誤しながら生み出してきたモノ。もはや、商品自体が自分自身だ』と、捉え直しました。そしたら、それを表現していきたいと思えるようになり、迷いが無くなったんです」
一つ一つの人生のターニングポイントで、自分に向き合い続けてきた山田さん。
その生き方が、一つ一つのモノに手しごとで向き合い続ける「フレル」のモノづくりに宿っているのだと思う。