
1894年に奈良県橿原市で創業されたミヅホはお酢のメーカー。
現社長の息子であり17代目でもある取締役の大西佑亮さんは、自社の特徴を生かしたクラフトビネガードリンク「saku」というブランドを開発した。
経営的に厳しい状況だった家業に戻り、0からブランド開発を行ったその背景には、大西さんの家業への爽やかな想いがあった。

何もしないまま終わらせたくない
奈良県で生まれ育った大西さんは大学院へ進学し、化学分野の研究をしていた。
「家業を継ぐことになると思っていたので、役に立ちそうなことを勉強をしました。小さい頃から会社で過ごす時間も多く、みんな楽しそうに働いていたので継ぐことへの抵抗はなかったですね」
しかし、大西さんは大学院を卒業後、自動車の大手ブレーキメーカーへ就職することになる。
「就活前に父から『会社をたたむつもりなので、継がないでほしい』と言われました。父の性格を考えると、説得するのは無理だろうと思ったので、興味があった自動車業界へ就職しました」
大手ブレーキメーカーで研究や新規事業開発の仕事をして約10年が経とうとしていた時、大西さんの心情に変化が生まれた。
「いろんなタイミングが重なったこともあったのですが、家業であるミヅホへ入社することを決めました。このまま自分が何もせずに会社をたたむのは違うなと。17代目だからこそ、何かを残したいなと思ったんです」

こうして大西さんは2025年1月にミヅホへ入社した。
長い時間で積み重なったこと
長い歴史を持つミヅホのお酢には多くの特徴がある。
「江戸時代から続く昔ながらの製法である静置発酵でお酢を作っています。お酢の原料となる日本酒に酢酸菌の膜を張り、あとは菌の重さで自然と醸造が進むのを待ちます。機械を使う深部発酵と比べ、時間はかかるのですが酸味の角が取れてまろやかな味になるんです」

静置発酵によるお酢作りを約80本という大規模な木樽で製造をしているのは、日本でも数が少ないという。
「うちは吉野という地域に山を持っていて、そこで吉野杉を1から育ててます。その吉野杉を使って酢を作るための木樽を作ってるんです。木桶は空気を通す唯一の桶であり、木の中にいる微生物が酢酸菌と共存できる。それにより旨みが強くなる」
こうしてミヅホのお酢は作られるが、特徴は製法だけではない。
「創業以前からお酢を作り続けた自宅でもある蔵が、2023年に国の登録有形文化財として登録されました。ずっと吉野杉の木樽でお酢を作り続けてきたので、弊社特有の香りがあります。その香りがお酢の風味になっているんです」

ミヅホのお酢には、長い歴史の中で積み重ねられた”何ものにも変えがたいもの”が詰まっている。
逆境でもカタチにしきる想い
そうして作られるミヅホならではのお酢を使い、大西さんは「saku」を開発した。
「”自然体のすこやかな日常”を作りたいという想いがありました。ご存知の通り、お酢は体に良いのですが『健康のために飲むのではなく、美味しいから飲む』という認識を生み出したい」
こんな想いから開発された「saku」だからこそ材料にもこだわっている。

「ドライフルーツなども酸化防止剤が使われていないものを選びました。また化学的に作られた香料も使っていません」
体によくない材料はもちろんだが、作り方にもこだわっている。
「お酢の美味しさをそのまま生かすように仕込んでいます。レシピを開発してくれた料理人の方からも『お酢そのものが美味しいから、シンプルな作り方が一番良い』と言われました」
2025年6月にローンチした「saku」だが、順調に販路が広がりつつある。
家業に何かを残したいという想いで逆境の中に飛び込んできた大西さん。その覚悟とミヅホのお酢への愛情がカタチになった「saku」をぜひ味わってみてほしい。



